小さな子供が混雑したデパートでお母さんとはぐれると、声をからして泣きます。
道端 に捨てられた子猫は、お母さん猫を探してニャアニャアと鳴き続けます。
人も動物もお母 さんから離れ、寂しくなると同じ姿で泣くのです。
ママが迎えにきてくれるまで必死に鳴 いて、自分の存在を教えているのです。
利尻島でのこと、佐々木さんという漁師さんからいい話を聞かせてもらいました。
今から六年前のある寒い日、佐々木さんがいつものように船を出し漁を終えて戻ったところ、港に何か白いものが浮いていました。
よく見るとなんと、アザラシの赤ちゃんでした。
驚いた佐々木さんはその子を急いで救い上げ、仕事もそっちのけで自宅に連れて帰りました。
温めたり小魚を口に含ませたり一生懸命に看病しました。
そのかいあって、その赤ちゃんは少しずつ元気を取り戻し、名前を「ゴマちゃん」と名づけました。
まだ幼かった佐々木さんの子供と一緒の布団で寝て、お風呂も一緒にはいったそうです。
ゴマちゃんはいつも家族と一緒に朝早起きし、漁でとった新鮮な魚を食べてどんどん大 きくなりました。
そして自然に戻せるように少しずつ船で外海に連れて行き、他の仲間に 合わせました。
するとやがて港には帰ってこなくなったそうです。
スコットランドで、アザラシと人の子供の交流を描いた「フィオナの海」という物語が ありましたが、まるで日本版のようです。
すばらしいのは、野生の動物をきちんと自然に返そうとしたことです。
佐々木さんの自然に対する思いに敬服いたします。
今でも沖に出ると、漁船のそばに一頭のアザラシが近寄ってくるそうです。きっとゴマちゃんに違いありません。
💗🥰💗
2002/07/17(水) 北海道新聞夕刊 掲載 (斉藤聡=札幌・石山通り動物病院院長)